「例外」の中に答えがある―私が現場で「目に見えないもの」を大切にする理由

ペットシッターを始めて、今年で23年になります。
開業当初の私は、とにかく「目に見えるもの」を頼りに仕事をしていました。
というより、それ以外の見方を知らなかったのです。
フードの成分、体重、食欲、排泄の状態、etc..
数値化できるもの、目で確認できるものを積み上げることが、プロの仕事だと思っていました。
けれど、そんな私の「正解」は、現場で過ごす時間とともに、少しずつ揺らいでいきました。
「正しくやっているのに、うまくいかない」
「正しさからズレているはずなのに、何故かうまくいっている」
どうして、こういうケースがあるのだろう。。
私の揺らぎの始まりでした。
理屈通りにいかない、現場のリアル
現場では、理屈通りにいかない場面に何度も出会います。
療法食を忠実に与え、定期健診も欠かさない几帳面な飼い主さんのペットが、若くして病気になる。
その一方で、教科書的な「正解」からは遠い環境で、驚くほど健やかに過ごす子たちもいる。
例えば、あるお宅の猫ちゃんは25歳という長寿でした。
食べていたのは、ホームセンターやスーパーで買える一般的なフード。
また別のお宅は、正直に言えば衛生的とは言い難い環境でした。
それでもそこにいる猫ちゃんは、いつも穏やかで、病気もほとんどせずに年を重ねていました。
「良いものを与え、清潔に整えれば安心」
その図式が、現実ではそう簡単に成立しない。
こうしたケースは、単なる「例外」なのでしょうか。
「例外」に直面したとき、何を見るか
例えば、こんなケースがありました。
13歳の猫ちゃん。
腎臓の数値はかなり悪く、かかりつけ医からは「ここまで生きていれば十分」と言われるような状態でした。
ただ、私はその飼い主さんとの関わりを通して、「この方はご自身でケアができる人だ」と感じていました。
そこで、通院や投薬を中心に据えるのではなく、ご自宅でできるケアをすべてお伝えし、実践していただく形を選び伝えました。
もちろん、これはすべてのケースに当てはまる方法ではありません。
ただこのケースでは、「猫ちゃんと飼い主さんが、どう関わるか」という選択がとても重要だと感じたのです。
結果として、その猫ちゃんは現在17歳。
毎日しっかりごはんを食べ、穏やかに過ごしています。
何が決定打だったのかを、ひとつに絞ることはできません。
けれど少なくとも、
「この飼い主さんならご自身でケアできる」という見立てと、その関係性の中で行われたケアが、この子の今に繋がっていると私は感じています。
多様性のかけ算は「無限大」
人間にも個性や体質があるように、ペットも同じです。
そこに飼育環境の違いが加わります。
『人間の多様性 × ペットの多様性 × 環境の多様性 = 無限大』
本来これほど複雑なものを、私たちは分かりやすくするために「傾向」という枠に当てはめます。
それは決して悪いことではありません。
けれど、つじつまが合わない現実に出会ったとき、それを「例外」として片付けてしまっていいのでしょうか。
もしかするとあなたも、
「ちゃんとしているのに、なぜかうまくいかない」
そんな違和感を抱えたことがあるかもしれません。
私は、その「無限大」に向き合う唯一の方法は、一頭一頭、一人一人を丁寧に紐解く「個別性の観察」しかない、と考えるようになりました。
「平均値」や「テンプレート」の妄信は、大切な何かを見落としてしまいがちなのです。
精度を上げるために「見えないもの」を見る
結果として、私は目に見えないものも見るようになりました。
個性、気質、思考パターン。
飼い主さんがペットをどう見ているか。
その場を包む空気感。
食べ物の質や環境の清潔さだけでは説明しきれない、もっと根源的な「何か」。
目に見える数値だけでなく、こうした背景まで含めて観察の間口を広げること。
それが、的外れなアドバイスを減らし、寄り添う精度を高める。
私にとって「目に見えないもの」を扱うのは、けっして曖昧な話ではなく、プロとしての「精度の話」なのです。
探求そのものが面白い
正直に言えば、この収拾がつかないほどの「例外」や、正解のないパズルを読み解くこと自体が、私にとって何より興味深く、面白いのです。
「単純化できない」というこの感覚に、今はある種の確信を持っています。
これからも、目の前の一頭一頭、そしてお一人お一人と向き合いながら、その複雑さを一緒に読み解き、
「その子にとっての答え」に近づくための伴走者として、全体を見るナビゲーターであり続けたいと思っています。
あなたのペットは、どんな「例外」を持っていますか?
※具体的に現場でどのようにケアの内容を変えているかについては、次の記事で触れていきます。


