シニア期のペットの自宅ケア/具体編 シリーズ②

― なぜ温める?なぜ水分?を分かりやすく解説 ―
前回の記事では、高齢期の猫との向き合い方や情報への接し方についてお伝えしました。
今回はその続きとして、自宅でできる具体的なケアをまとめます。
ただし、単なる「やることリスト」にはしたくありません。
なぜそれが必要なのかを理解した上で行うケアは、納得感も続けやすさも大きく変わります。
まず知っておきたいこと
なぜ高齢猫ケアは「血流」が鍵になるのか
動物病院では、腎臓の薬として血流を良くする薬や、血管に関係する薬が処方されることが増えています。
これはとても自然な流れです。
なぜなら、腎臓は分かりやすくいうと“血流の臓器”だからです。
心臓から送り出される血液の約20〜25%が腎臓に流れ込みます。
腎臓は血液をろ過し、老廃物を体の外へ出すフィルターです。
血流が落ちる
→ ろ過能力が落ちる
→ 老廃物が体に残る
この流れが起こります。
冷えが腎臓に良くない理由
体が冷えると、体は熱を逃がさないよう血管を縮めます。
すると、腎臓への血流が減る
→ 代謝が落ちる
→ 血圧が上がる
特に血圧上昇は、腎臓の細い血管にダメージを与えます。
つまり「冷え」は腎臓にとって静かな負担になります。
実は他の臓器も同じ
冷えの影響は腎臓だけではありません。
・肝臓:代謝・解毒の低下
・胃腸:消化酵素の働き低下
・免疫:体温が適正なほど活発
高齢ケアとは、体温と血流を守ることとも言えます。
ここから具体ケアに入ります。
高齢猫の自宅ケア/ 6つの柱
① 食事のケア
「正しさ」より「食べる喜び」
シニア期は代謝と消化能力が変化します。
一般的には
・低脂肪
・リン控えめ
・ナトリウム控えめ
のシニアフードが推奨されます。これは概ね正しいです。
ただし大切なことがあります。
栄養の正解だけでなく、食べる喜びも守る。
好まないフードを与え続けることは、心の健康を下げてしまいます。
神経質になりすぎないこと。
飼い主の緊張は動物に伝わります。
食べやすさの工夫
・食器は少し高い位置へ
・ウェットフードやぬるま湯で水分補給
② 環境のバリアフリー化
高齢猫は「できなくなった」のではなくやりづらくなっただけです。
・段差にステップ設置
・低入口トイレへ変更(またはシートのみに変えてみる)
・寝床をトイレ近くに(これはかなり衰弱した場合でOK)
③ 水分摂取(とても重要)
猫はもともと「水をあまり飲まない動物」です。
砂漠由来の体の仕組みを持ち、食事から水分を得る前提で進化しています。
しかしシニア期になると状況が変わります。
腎臓の機能は年齢とともにゆっくり低下し、体は水分を失いやすくなります。
その結果、体の中では静かに「慢性的な軽い脱水」が起こりやすくなります。
この軽い脱水は目に見えにくいのですが、体には大きな影響があります。
・腎臓への負担増加
・尿の濃縮 → 泌尿器トラブルのリスク上昇
・便が硬くなる → 便秘
・血流低下 → 体温低下・食欲低下
つまり水分不足は、シニア期の不調を連鎖的に引き起こします。
逆に言えば、水分摂取は体の巡りを支える基本ケアです。
水分を「飲ませる」のではなく、自然に増やす工夫が大切です。
水分を増やす工夫
・ウェットフードを取り入れる
・ドライフードにぬるま湯を加える
・水飲み場を複数設置する
・器の素材や形を見直す
・新鮮な水をこまめに交換する
飲水量は健康状態を知る重要なサインでもあります。
「よく飲むようになった」「急に飲まなくなった」
この変化は体からのメッセージです。
シニア期のケアは特別な治療ではなく、日々の小さな水分補給の積み重ねから始まります。
④ 温めるケア(重要)
そして最重要が”温度管理”。です。
若い頃より寒さに弱くなります。
腎臓は背中側の腰にあります。
つまり、腰を温める=腎臓を守る
ホットマットが有効な理由
・体温調節が苦手になる
・関節痛の緩和
・睡眠の質向上
設置の3つの鉄則
① 全面に敷かない(逃げ場を作る)
② タオルを挟み低温火傷防止
③ コード保護・防水
代替:レンジ湯たんぽ・自己発熱マット
⑤ ボィケアとスキンシップ
・ブラッシング=血行促進+全身観察
・爪切り=巻き爪防止
・口臭チェック=歯周病サイン
触れる時間は健康チェックの時間です。
⑥ 毎日の観察(健康管理の土台)
猫は本能的に不調や痛みを隠します。
野生では「弱っていること」が命取りになるためです。そのため、体調の変化はとても静かに現れます。
大きな異変として現れる頃には、かなり進行していることも少なくありません。
だからこそ、日常の小さな変化に気づくことが何よりのケアになります。
観察は特別なことではなく、「いつも通り」を知ることから始まります。
毎日見るポイント
・体重減少(ゆっくりでも要注意)
・飲水量・尿量の増加(腎臓のサイン)
・便の乾燥・便秘
・歩き方の変化(関節・筋力低下)
・毛並みの変化(体調・セルフケア低下)
これらはすべて「小さなサイン」です。
ひとつだけではなく、複数が重なった時は特に注意が必要です。
早く気づけるほど、選択肢は増えます。
毎日の観察は、最もやさしく確実な健康管理です。
心のケア
高齢猫は眠る時間が増えます。
その姿を見て関わりが減ることがあります。
でもこの時期こそ、精神的な安心感が重要になります。
必要なのは刺激ではなく、変わらない日常。
・同じ時間に起きる
・同じ場所で眠る
・同じ人がそばにいる
「いつも通り」は大きな安心になります。
●小さな刺激は脳のケア
・短時間のおもちゃ遊び
・軽い声かけ
・ゆっくり撫でる、肉球のマッサージ
無理のない刺激は生活の質を保ちます。
●見守ることもケア
安心して眠れる環境そのものが心のケアです。
定期健診について(少し立ち止まって考える)
定期健診はとても大切な考え方です。
ただ、検査の受け止め方には個人差があります。
・不安解消のため
・習慣として
・安心材料として
どれも間違いではありません。
大切なのは「私はなぜ受けているのか」を自覚していること。
検査を否定したいわけでも、過度に推奨したいわけでもありません。
納得して選ぶことが日々のケアにつながります。
あふれる情報への接し方と同じです。
そしてもうひとつ大切な視点があります。
検査は「体の一部分を詳しく知るもの」ですが、
毎日の暮らしは「体全体に影響するもの」です。
ここから先は、家庭でのケアの視点です。
例えば腎臓の検査数値が良くなかった場合、腎臓だけを見ないという視点も大切です。
体はパーツの集合ではありません。
すべてが血流でつながっています。
医療は臓器を精密に診ることが得意です。
家庭では森を見る視点が必要です。
食事・体温・血流・環境・安心感。
体全体を整えることが臓器を守ります。
体は「環境」と「人」ともつながっている
体の状態は、体の中だけで完結しているわけではありません。
暮らしの環境は日々、静かに体調へ影響します。
室温、湿度、光、音。
小さな変化でも、シニア期の体には負担になることがあります。
そして、もうひとつ見落とされがちな存在があります。
飼い主さんです。
動物は言葉ではなく「空気」を感じて暮らしています。
人の緊張や不安、慌ただしさは想像以上に伝わります。
落ち着いた空気、安心できる関係、穏やかな日常。
こうした環境そのものが健康を管理し、維持する一部になります。
体は臓器だけでなく、暮らしの中で支えられています。
最後に
特定のケアに意識が集中しすぎると、全体のサインを見落とします。
木を見て森を見ずにならないこと。
多くの方が治療というと病院を思い浮かべます。
しかし、動物が一日の大半を過ごす場所は自宅です。
病院は治療の場所。
自宅は生活の場所。
役割が違うのです。
日々の暮らしの中で行われるケアは、治療の土台になります。
治療の舞台は病院だけではなく、毎日の暮らしの中にもあるのです。
以上が、ペットシッターとしての視点です。
基本的な情報ばかりですが、大事なことは意外とシンプルなのかもしれません。


