
往診のすすめ
ありがたいことに、私が住む福岡では、ここ数年往診を専門とする獣医さんが増えてきました。
往診というと、
「動物を移動させなくていい」
「ストレスが少ない」
「高齢の子や多頭飼育には助かる」
「獣医さんとの心的距離が近く話しやすい」
といった、物理的なメリットがまず挙げられることが多いと思います。
もちろん、これらは往診の大きな利点です。
実際に利用された飼い主さんからも、その利便性についてのお声はよく耳にします。
けれど、現場に立つ側として長く仕事をしてきた中で、私は物理的メリットとは少し違うところに往診の本当の価値があると感じています。
空間そのものが放っている情報
往診では、家に一歩足を踏み入れた瞬間から、さまざまな情報が一気に入ってきます。
家そのものが持つ空気感
そこにいる飼い主さんの佇まい
動物たちとどんな距離感で過ごしているのか
それらは、
「言葉で説明してください」と言われても、すぐに言語化できるものではありません。
視覚や体感として受け取る、感覚的な情報です。
けれど、この情報量はとても豊かで、通院した病院という限られた空間では、どうしても得られないものでもあります。
病院では見えない理由
病院では、動物も飼い主さんも「非日常」の状態に置かれます。
普段とは違う場所、違う音、違う匂い。
どうしても緊張が前提になります。
それは決して悪いことではなく、病院という場には病院だからこその役割とメリットがあります。
ただ、
「普段どんな暮らしをしているのか」
「日常の中で何が起きているのか」
という情報は、どうしても切り取られてしまいます。
専門職は、空間の情報をどう扱っているのか
往診の獣医さんやペットシッターといった仕事に携わる専門職は、この空間が放っている情報を、意識的というよりも無意識の部分で受け取っています。
入ってきた情報は、これまでの経験や知識と照らし合わされ、
「今、何を優先すべきか」
「どこに目を向けるべきか」
という判断材料として自動的に整理されていきます。
そして、その判断を
「 飼い主さんにどう伝えればいいのか」
「どんな言葉を選べば目の前の飼い主さんの負担にならないのか」etc…
そうしたことまで含めて、瞬時に組み立てられていきます。
この視点は、シッター業を通して育ってきたもの
私自身、この「空間情報を把握する視点」は、ペットシッター業を通して体得してきたものです。
それぞれの家庭には、それぞれのリズムがあります。
同じ犬種、同じ猫種でも、まったく同じ空間は一つとしてありません。
無意識に空間の情報を読み取り、その場に合わせた関わり方や対応を選択するようになると、お客様との関係性も少しずつ変わっていきます。
説明が過剰にならなかったり、逆に必要なことはきちんと伝えられたり。
結果として、信頼関係が自然に深まっていくのを感じてきました。
そしてそれは、仕事に対する自分自身の満足感を高めることにもつながりました。
「なんだか安心する」の正体
往診を利用された飼い主さんが
「なんとなく安心しました」
とおっしゃることがあります。
その安心感の中には、単なる利便性だけでなく、こうした言語化の難しい感覚的な要素が多分に含まれていると私は思っています。
空間ごと受け止めてもらえたという感覚。
日常を理解した上で見てもらえたという安心。
それが信頼感につながり、良い関係性の循環、いわゆる正のスパイラルを生んでいきます。
往診とは何か
往診とは、
「移動しなくていい」という便利なサービスであると同時に、
動物だけでなく、その暮らしや関係性、空間そのものを含めて受け取り、
その時に、必要なケアを届けること。
私はそう考えています。
往診専門の獣医さんが近隣にいない場合は?

通院型の病院を利用する場合、飼い主さんが意識的に情報を伝えることで、往診で得られる「日常の情報」を補うことができます。
動物たちの状態や状況を出来る限り詳細に書き出し、ある程度整理して、イメージしやすいように伝えましょう。
📝 診察時に獣医師に伝えるべきポイント
診察前に下記の情報をメモにまとめておくと、伝え忘れを防ぎ、効率的な診察につながります。
1. 現在の主な症状(5W1Hで整理)
最も重要なのは、「いつから」「どんな」変化があったかを具体的に伝えることです。
- When (いつから): 症状が出始めた正確な日付や時間。
例:「3日前の夜から」「今朝から」 - How (どのように/症状): 具体的な症状を数字や擬態語を交えて伝えます。
例:「餌をいつもの半分しか食べない」「昨晩から5回嘔吐した」「乾いた咳を1時間に2〜3回する」「便が泥状で、色はいつもより黒っぽい」 - Where (どこが): 症状がある部位や、異常を見つけた状況。
例:「左後ろ足を引きずっている」「耳をよく掻いている」「散歩中に急に立ち止まった」 - Why/What (きっかけ/原因): 症状の直前に何か特別なことがなかったか。
例:「いつもと違うおやつを与えた直後」「他の犬と接触した」「高いところから落ちた」
2. 日常の様子と基本情報
普段の様子と比べた変化が診断の大きな手がかりになります。
- 元気・食欲の変化: 普段を100%とした時の現在の元気度や食欲の割合。
例:「元気は70%くらい。散歩に行きたがらない」「食欲は普段通りだが、水を飲む量が増えた」 - 排泄物(便・尿)の変化: 回数、色、形、量などの具体的な変化。
例:「尿の回数が急に増えた」「便が小さく硬くなった」 - 過去の病歴・予防歴:
- 現在飲ませている薬やサプリメントの名前。
- 過去に患った大きな病気や手術(いつ頃かも)。
- ワクチン、フィラリア、ノミ・ダニ予防の最終接種・投与日。
- 生活環境:
- ふだんの食事内容(フード名、おやつなど)。
- 室内飼いか屋外飼いか、他に同居動物がいるか。
3. 補足情報(可能であれば)
獣医師が目で見て確認できない症状は、写真や動画が非常に役立ちます。
- 動画・写真の活用: 痙攣、咳、歩行異常、嘔吐・下痢の様子など、家でしか見られない症状を撮影したもの。
- 排泄物の現物: 下痢や血便、異常な尿など、可能であれば現物またはその写真を提示。
- 症状の記録: 症状が出た日時、回数、具体的な内容をメモした「健康日記」など。
4. 飼い主の希望と懸念
治療方針を決める上で、飼い主さんの考えを伝えることも大切です。
- 治療に対する希望:
例:「できる限り詳しく検査してほしい」「費用を抑えた治療法も検討したい」「高齢なので、QOL(生活の質)を重視したい」 - 最も不安に思っていること:
例:「この症状は緊急性が高いか」「このまま様子を見て大丈夫か」
治療の選択と飼い主さんの想い
病気によっては積極的な治療を躊躇う場合もあると思います。
特に治療をすることで副作用が予想されたり、治療費が途方もなくかかったり、治療をするべきかやめるべきか迷ってすぐには決められなかったり…。
そういう場合は獣医さんに選択肢や類似の事例を挙げてもらい、判断材料をできるだけ集めることをお勧めします。
賛否はあるかもしれませんが、QOLを考えて「あえて治療をしない」という選択も一つの治療法として検討しても良いのではないかと私は思っています。
この選択には大きな心的負荷が伴います。
迷いに迷い抜いて選んだ選択であれば、私はそんな飼い主さんの想いを尊重したいと思っています。だって本当につらいことなのですから。
いつも長文になります。
最後までお読みくださいましてありがとうございました。



