20年以上現場に立って見えた「仕事の5層構造」

ペットシッターの仕事は、なぜこんなに消耗するのだろう。

・休んでいても気が休まらない
・仕事が頭から離れない
・ちゃんとやっているのに、なぜか苦しい

もし一度でもそう感じたことがあるなら、それは能力や性格の問題ではありません。

この仕事には、見えにくい構造があります。

このマインドマップが示しているもの

このマインドマップが示しているもの

これは「やることリスト」ではありません。

ペットシッターの仕事がどの層で同時進行しているのかを整理したものです。

重要なのは、これらの層が直列ではなくすべて同時に起きているという点です。

第1層|作業・実務層

見える仕事、評価されやすい仕事


給餌、トイレ掃除、投薬、報告。

誰が見ても分かりやすく、マニュアル化しやすい領域です。

・比較されやすい
・評価されやすい
・「できている/いない」が判断されやすい

多くの人は、ここを完璧にすればプロになれると思ってスタートします。
でも実際は、ここは入口にすぎません。

真面目な人ほど、この層で自分を酷使します。
そして気づきます。

「丁寧にやっているのに、楽にならない」

仕事の重さは、ここから先で増えていきます。

第2層|判断・管理層

仕事が一気に重くなる地点

ここから仕事の性質が変わります。

・スケジュール管理
・異変の見極め
・受診判断
・報告内容の取捨選択
・飼い主・獣医との連携

ここには「正解」がありません。

例えば――

猫に多い泌尿器トラブル
前日から一度も排尿していない場合、すぐ受診か、もう少し観察かを判断しなければなりません。

普段の排尿頻度、直近の様子、飼い主からのヒアリング。
それらを総合して判断します。

むやみに病院へ連れて行けば、不要な治療費を発生させてしまう可能性もあります。
だからといって様子見が遅れれば命に関わる。

自分のリスク回避だけを優先するわけにはいきません。


小型犬が緑色の吐しゃ物をしたこともあります。
一瞬、血の気が引きます。

結果は「要観察」で回復しましたが、原因は自動給餌機の作動不良による空腹でした。

「機械は正常に動く」という先入観が、判断を難しくします。

さらに難しいのが糖尿病のペットです。
ぐったりしている原因が高血糖か低血糖かシッターレベルでは判断が極めて難しい。

この場合は飼い主への即連絡、状況によってはそのまま受診になります。

そして、もうひとつ神経を使う仕事があります。

報告内容の取捨選択です。

報告は、単なる記録ではありません。

・飼い主さんがどの程度の知識を持っているか
・どのくらい心配しやすいか
・どんな対処を選びやすいか
・ペットとの距離感

こうした要素を無意識に考えながら、文章に変換しています。

心配させすぎてもいけない。
安心させすぎてもいけない。

同じ出来事でも、誰にどう伝えるかで意味が変わります。

結局、日々見ている基本が最も重要になります。

・食欲
・排泄(尿・便)
・飲水量
・動物の雰囲気

当たり前すぎて軽視されがちですが、異変はまずここに現れます。

第3層|非言語・感覚層

言葉にできないが最も重要な領域


部屋に入った瞬間の違和感。
動物の視線、呼吸、距離感。

数値にも記録にも残らないのに、現場では確かに存在する感覚があります。

例えば――

仔猫なのに、妙に落ち着きすぎている子がいました。
遊びへの反応もあり、食欲もある。
一見すると問題はありません。

それでも「仔猫らしくない静けさ」がありました。

後日、その子は軟便を繰り返し、FIPと診断されました。
あの違和感は間違っていなかったのだと思いました。

判断が難しいのが、元気な高齢猫です。

高齢猫は基本的に静かです。
それなのに、妙に陽気すぎる。
落ち着く年齢なのに、どこか荒ぶっている。

後に甲状腺機能亢進症と分かりました。

過食や多飲多尿などの症状が揃えば疑えます。
しかし兆候しかない段階では、頼れるのは「おや?」という感覚だけです。

過度に毛づくろいをする子もよくいます。

アレルギーだけを疑うのではなく、環境や同居動物との関係も含めて考えます。
不安を煽りすぎないように伝えることも重要です。

私の感覚では、犬は食物アレルギーが多く、猫は環境要因が少なくない印象があります。

もちろんこれは統計ではなく、長年の現場から得た「感覚」にすぎません。


こうした感覚は教えられません。
マニュアル化もできません。

続けた人の身体に、あとから染み込んでいくものです。
この層に入ると、仕事は技術だけではなく在り方の領域に入ります。

第4層|信頼・関係性層

操作できないが、すべてを左右する


長期契約。
紹介が自然に生まれる。
細かく説明しなくても任される関係。

これは目標にされがちですが、実際は結果です。

信頼は「作ろう」とした瞬間に歪みます。
誠実さの積み重ねの残高として、あとから残るものです。

第5層|消耗・限界層

個人でやる以上、必ず通る地点


体力・時間・感情。
すべて有限です。

ここで重要なのは一つ。

これは失敗ではなく、構造上の必然。

この層を無視すると

「もっと頑張れば」
「気持ちの問題」

という精神論に向かいます。
そして燃え尽きます。

これらはすべて同時に起きている

現場では同時に

・作業しながら
・判断しながら
・違和感を拾いながら
・関係性に配慮しながら
・自分の限界とも向き合っています

疲れて当然です。
混乱して当然です。

あなたが弱いからではありません。

この構造を知ると何が変わるのか

① 今どの層にいるか分かる
→ 無駄な自責が減る

② 判断を急がなくてよくなる
→ 「様子見」を選べる

③ 消耗を異常と捉えなくなる
→ ケアすべきサインになる

④ 自分ではなく構造を見直せる
→ 次の一手を冷静に考えられる

おわりに

このマインドマップは、完璧に使いこなすためのものではありません。

迷ったときに立ち戻るための地図です。

もし今、疲れている人がいたら。
自分を責めている人がいたら。

それはあなたがダメだからではなく、この仕事が想像以上に多層だからです。

この「勝手に分析シリーズ」が、どこかの誰かの助けになれば嬉しく思います。